2013年8月20日火曜日

植物工場

今回は植物工場についての話題です。

 農業は、どうしても天候によって生産が左右されますが、工業製品のように一定品質のものを安定して生産したい、というニーズは強いですね。

 そこで、ビニールハウスや温室を使った、いわゆる施設園芸が行われています。


 温室と言えば、オランダが真っ先に思い浮かびますが、日本は実は施設園芸の面積ではオランダよりも広く、世界第2位です。(1位は中国)


 こういった設備化ですが、第一歩はまず雨よけ栽培。

 雨による病気の発生や、作物の品質低下を防ぎます。


 しかし、代わりに雨水が利用できないために、灌水装置が必要になります。



 次に、施設内の温度管理を主な目的として、圃場をガラスやビニールシートで全面被覆します。

 そして冬には暖房します。

 そうすると、光合成により炭酸ガス濃度が低下するので、CO2発生装置を設けます。


 さらに土壌中の病害虫を防ぐために水耕、もしくは砂耕、礫耕栽培とします。

 そして養分管理のためにコンピューターを導入し、生育ステージに応じて養分を投入します。


 最後に人口光源を用いて不安定な日射から解放・・・ということで植物工場が完成です。



 植物工場による生産のメリットはいろいろとあります。

 まずは当初の目的通り、天候によらず安定して農産物が生産できます。

 また、病害虫をほぼ完全にシャットアウトできるため、無農薬で栽培できます。

 病害虫が野菜を傷めないため、野菜の側も自分の身を守るための防御物質を出す必要がなくなり、二重の意味で安全性が高まります。


 他に、植物にとって理想的な環境を提供できるため、普通栽培に比べ、生育が進むという特徴もあります。

 その結果、果菜類では収量が増え、葉菜類では収穫が早まって回転を速くできます。


 さらに土を使わないので、連作障害がなく、土壌消毒の必要もありません。

 さらに生産者にとっても作業が楽になるので、高齢者や障碍者の方でも作業でき、雇用確保につながるという効果もあります。



 これに対して、デメリットはやはり採算性です。

 設備投資費、維持費とも高いので、採算が取れる植物は限られています。

 現在実用化されているのは、レタスやトマトなど一部の野菜が主です。



 これ以外に、なぜかそれほど触れられないのが、環境配慮面からのデメリットです。

 私には、マクロ的に見るとこれが一番の問題のように思われます。



 そもそも、高度経済成長期以前の農業は、太陽から受けたエネルギーを植物が有機物に変え、これを人間や牛馬が利用して、農産物を再生産したり各種の活動を行っていました。

 その後、機械化や化学産業の発展とともに、太陽光以外のエネルギー:石油や原子力発電等で得たエネルギー、の利用比率が高まりました。

 高度経済成長以前では、収穫したエネルギーに対する投入エネルギーの比率が20くらい。

 つまり、ごく大雑把に言い切ってしまえば、作物を作ればつくるほど空気中の炭酸ガスが固定されて土が肥えてくる訳です。


 しかし、この比率が、時代とともに低下しています。

 具体的な数値は分かりませんが、現在では生産以外の流通やその他の面まで含めれば、1を切っているでしょう。

 つまり、作れば作るほど地中の有機物やその他の資源を消費しているわけです。


 農業は全ての産業の中で、唯一自然環境を改善できる可能性のある産業なのに、現在では自然環境を破壊する産業になっているのです。


 その中でもこれを究極まで進めたのが、植物工場。

 完全人工光利用型はもちろん、太陽光利用型でも生産された作物でもほぼ完全に地下資源からのエネルギーにより得られたものです。




 このような近代的な植物工場がつくられる一方で、耕作放棄地は年々増大しています。



 農業には、農産物の生産以外にも洪水や土砂災害を防止するという多面的機能があります。


 耕作放棄地が増え、中山間地の集落が廃れることにより、これらの機能は失われ人口密集地にも災害は及びます。


 植物工場よりも、こちらを何とかするほうがよほど重要なように私には思われます。



 ところで、消費者としてみた場合、植物工場の野菜はどういう風に評価するのでしょうか?

 植物工場で、完全無農薬で虫食いの全くない野菜と露地で虫食いだらけの有機農産物、あるいは農薬たっぷりの虫食いのない野菜とかと一緒にスーパーに並んでいたらどれを選ぶのでしょう?



参考にした本

池田英男 植物工場ビジネスー低コスト型なら個人でもできる
日本経済新聞出版社

高辻正基 図解よくわかる植物工場 B&Tブックス

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